英会話レッスンを教授していて、常に心掛けていることの一つが、腑に落ちるような明確な説明をする、ということです。
「この2つの語彙の違いは何?」「どっちのほうが良く使う?」「両方とも覚えないといけないの?」と聞かれることが多々あります。
会話中に単語のチョイスに迷い、適当な語彙を使ってその場をやり過ごしてみたは良いものの、後で確認することなく、また似たような会話をする場面に遭遇し、同じことを繰り返してしまい、自信をなくしたことはありませんか?
今回は語彙が持つニュアンスの違いをクリアにし、自信を持ってその状況に合った言葉が使えるようにしましょう。
「みる」➡ See, Look, Watch の違い
look:自分の意志で対象物に視線を向ける
watch:動くもの・変化するものをしばらくの間じっと観る
- I saw her downtown last night. saw = see の過去形
- 昨夜、街で彼女を見かけたよ。
昨夜、街を歩いていたら偶然彼女の姿が視界に入ってきた、というシチュエーション。話し手は彼女を探していたわけではなく、バッタリ出くわしたため、この場合は「see」を使います。
その他の例
- I can’t see the whiteboard.(ホワイトボードに書かれた文字が見えない。)
- What can you see in this picture?(この絵の中には何が見えますか?)
- Look at the sky! There’s a rainbow!
- 空を見て!虹が出ているよ!
きれいな虹を相手に見せてあげたいので、空を見るように提案しているシチュエーション。
この後、相手はこのセリフを聞いて、自ら目線を空へ向け、空にある(動かない)虹を見るため、この場合は「look」を使います。
その他の例
- She is looking at the painting.(彼女はその絵画を見ている。)
- I’m looking for my key.(私は鍵を探している。)
- He is watching birds outside.
- 彼は外で鳥を観ている。
バードウォッチングが趣味である彼は、鳥の動きを観察することに夢中になっているシチュエーション。対象物が動いており、その世界に入り込む場合は「Watch」を使います。
その他の例
- She is watching a movie.(彼女は映画をみている。)
- I like watching soccer games.(サッカーの試合をみるのが好きです。)
「会う」➡ Meet, See の違い
see:意志の有無に関わらず視界に入る。「たまたま見かける」の意。
- I met my teacher yesterday.
- 昨日は先生と会った。
先生と会い、会話をしたというシチュエーション。偶然会った場合は「happen to meet 人」「meet 人 by chance」などの偶然性を示す言葉を伴うことが多いです。また、meet は初対面の時にも用いられるため、あいさつ文も気をつけましょう。【参照:英語で挨拶をしてみよう!】
その他の例
- I happen to meet my teacher on the train.(電車で偶然先生に会った。)
- I’m glad to meet you.(はじめまして。)
- I saw my teacher yesterday.
- 昨日は先生と会った。
先生を見かけただけなのか、実際に会話をしたのかが不明。どちらかと言えば、姿を見かけたが声をかけなかった、というニュアンスとして捉えられやすいです。あいさつ文では再会時に用いられます。
その他の例
- I always see him on the train.(電車でいつも彼を見かける。)
- I’m glad to see you again.(またお会いできて嬉しいです。)
「外見」➡ 名詞 Look と Appearance の違い
appearance:意識的に変えられる外見
- She gave me a worried look.
- 彼女は心配そうな顔をしていた。
気にかかる情報を得た彼女は、思わず表情がくもり、眉が下がった様子。彼女はこのような表情を意識的につくったわけではありません。名詞の 「Look」 は、無意識に表れる外見、主に顔の表情を表す時に使います。
- She is worried about her appearance.
- 彼女は外見を気にしている。
お洒落にこだわりたい年頃の彼女は、その日の着こなしや体型に敏感になっている様子。素敵な洋服を雑誌で見て買ったり、食生活をコントロールしていることが予測できます。つまり、「Appearance」は主に、身なり・着こなし・振る舞いなど、意識的に変えることができる外見を表す時に使います。
人やモノの外見について聞く時は look や appearance と言う単語を使うよりも「What does 人/物 look like?」と聞く方が、より自然な英語です。「What ~ like?」は「どんな」という意味です。
その他の例
- What does your mother look like?(あなたのお母さんはどんな見た目ですか?)
- What does the shop look like?(そのお店はどんな外観ですか?)
Look, Watch, See, Meet のよくある間違い
- × You look tired.
You seem tired. - 疲れているみたいだね。
相手の労をねぎらう「お疲れ様」のニュアンスを含んだこのフレーズは、日本人同士ではよく使います。しかし、英語に直訳して Look を使用すると、とても深刻なイメージを含んでしまうため、「顔色悪いよ。本当に大丈夫?」と言われているような気がします。軽い挨拶程度で上記の文を言う場合は、seem(=~のようですね)を使いましょう。
その他の例
- He seems to be happy.(彼は幸せそうだ。)
- He seemed quite angry.(彼はとても怒っていたように見えた。)
- × Could you look at my baby?
Could you watch my baby? - 赤ん坊を見ていてくれない?
少しの間。席を外すので、近くにいる人に赤ん坊が安全でいられるように見ておいて欲しい、とお願いをしている様子。冒頭の解説でも述べたように、Look は静止したものを意識的に見るのに対して、Watch は動くものをじっくり見る時に使います。これは映画やスポーツに限らないのです。
Watchを含んだ文章の例
- Please watch your step.(足元にお気を付け下さい。)
- Watch out for the cars!(車に気を付けて!)
- × See you again.
See you later. - (退勤時に)じゃあ、またね。
お別れの挨拶には、See you~ で始まるものがたくさんあります。Again は、しばらく会えない人や会わない人に対して使います。翌日または近いうちに会う可能性が高い同僚に対しては、「あとで」という意味の Later を使います。これは数分後という意味ではないので、次に会うのがその日の内でなくても使うことができます。
気軽なお別れの挨拶文の例
- Talk to you later.(またあとで。)
- See you around.(またね。)
- × It’s first time.
We’ve never met before. met = meet の過去形 - 初対面ですね。
初めて会った人に対して言うフレーズで良く耳にするのが、上記のような「初めて」の直訳の例です。この文章は前後に更に文章を足せば使う事はできますが、単体では不完全なので、「何が?」と聞き返されてしまう恐れがあります。初対面=今までに会ったことがない、と解釈し、英語に直すとシンプルな文章で正確に伝わります。
First timeを含んだ文章の例
- When I met you for the first time, I couldn’t speak English.(初めてあなたと出会った時、私は英語が話せなかった。)
- I went to Paris for the first time.(初めてパリに行った。)
Look, Watch, See, Meet のイディオム
➡ Look のイディオム
- forward to(楽しみにしている)
- ➜ I’m ing forward to seeing you again.(また会えるのを楽しみにしているよ。)
日常からビジネスシーンまで、非常に良く使うフレーズです。気を付けるべきポイントは、「ing」が2回続くということです。Seeing の ing は、動名詞というもので、「会えること」という意味です。
- like something the cat dragged in(ひどい様子)
- ➜ After running around in the rain for hours, I ed like something the cat dragged in .(雨の中を何時間も走ったので、私はずぶ濡れだった。)
drag~in は引きずり込むという意味なので、直訳をすると「まるで猫が引きずってきた何かのようだ」となります。つまり、ボロボロな様子、疲れた様子などを描写する時にこのような表現を使います。
➡ Watch のイディオム
- your mouth!(言葉に気を付けなさい!)
- your step!(足元に気を付けて!)
ののしり語や下品な言葉を使ってしまった時に、英語ネイティブなら両親や先生に一度は言われたことがあるフレーズです。また、段差がある公共の場ではよく「というサインを見かけます。 your step!」
- Like ing paint dry(とてもつまらない)
- ➜ Shopping is like ing paint dry.(私は買い物をすることに興味が持てない。)
同じ意味を持つイディオムで「Like watching grass grow」というものもあります。ペンキが渇くのを、または草が生えるのをジっと見ていることは、全く面白くないですね。そのような情景を比喩的に表現した言い方です。
➡ See のイディオム
- Can’t any further than the end of one’s nose(視野が狭い)
- ➜ She is so selfish she can no further than the end of her nose.(彼女は視野が狭く、わがままだ。)
直訳は、自分の鼻の先よりも遠くは見えない、です。つまり、自分の世界以外は視野に入らないようすから、このように言います。辞書や参考書に出てくる「one’s」とは、所有格の代名詞を入れる、という意味です。上記の例文の場合は「her」にあたります。
- Can’t hand in front of face(良く見えない)
- ➜ It was so dark that I couldn’t my hand in front of my face.(暗くて良く見えなかった。)
直訳は、顔の前にある手が見えない、です。つまり、何も見えない時に使う表現です。主に暗闇の中で見えない時に使います。
- Can’t the forest for the trees(木を見て森を見ず=状況が把握できない)
日本語にもあるこのフレーズを英語で言うとこのようになります。
➡ Meet のイディオム
- make both ends (収支を合わせる)
- ➜ He is making both ends somehow.(彼は何と収入でやりくりしている。)
この表現の由来は諸説ありますが、多くのネイティブは、収入と支出を棒グラフで表した時の端のことをendsと解釈しています。つまり、「収入と支出の端が合うようにする」という意味に、使役動詞の make(=させる)を合わせて、「収支を合わせる」と訳します。
- one half way(互いに譲歩する)
- ➜ I can’t change my mind, but I’ll him half way.(意見を変えることはできないが、譲歩はする。)
議論をした時に、お互い完全に譲ることができなくても、少しずつ歩み寄って譲歩し合うことはよくあります。言葉通り、「それぞれの現在地から半分の地点まで歩み寄る」という表現を「譲歩」と訳します。
まとめ
冒頭に述べた「両方とも覚えないといけないの?」という質問の答えは「Yes.」です。
日本語に訳したら同じ意味を持っている語彙でも、英会話ではそれぞれ違うニュアンスを持っているため、どれも覚えておく必要があります。
「なぜそんな面倒なことになっているの?」と思ってしまう方もいるかもしれませんので、最後に英語の誕生秘話をご紹介しましょう。英語はもともと2つの言語でした。
アングル族・サクソン族・ジュート族が5世紀ごろから用いていたアングロサクソン語と、ノルマン族が11世紀ごろに用いていたフランス語が一つの言語になったと言われています。
また、その後も外来語が度々導入されることにより、似た意味を持つ単語が沢山あるのです。当時はそれぞれの人達が自身の言語を話していたのですが、時代と共に「英語」という一つの言語になるにつれて、ニュアンスの違いが後々決められたものだと言われています。
最後にどのような語彙がどちらの言語から生まれたのかを見てみましょう。
アングロサクソン語 | フランス語 |
---|---|
cow(牛) | beef(牛肉) |
swine(豚) | pork(豚肉) |
buy(買う) | purchase(購入する) |
drink(飲む・飲み物) | beverage(飲料) |
answer(答え・答える) | reply, response(回答する・返答) |
behavior(態度) | manner(作法) |
belongings(持ち物) | property(所有物) |
worthy(値する) | valuable(貴重品) |
folks(仲間) | people(人々) |
牛を育てていた農民の多くに使用されていたアングロサクソン語と、ステーキが食卓に並んでいた裕福なノルマン族が話していたフランス語。単語を見ているだけで歴史を垣間見ることができます。フランス語がもととなっている語彙は現代のビジネス英語やTOEICの学習に使用できるものが多いとも言えます。